2013年6月16日日曜日

第五回 : ヨーロッパひとり旅 (2)

訪れた場所はどれも魅力的でしたが、ベルギーのワーテルローがとくに印象に残っています。
英雄ナポレオン・ボナパルトの最後の戦場として歴史に名高いわりに、交通が不便で、観光化もされていません。 それでも歴女の私にとっては、ローカル列車と徒歩20分、タクシー20分を乗り継いでも訪れたい場所です。
ところが帰り用に予約したタクシーがやってきません。運転手さんの携帯に電話してもつながりません。 管理事務所らしき建物もすでに閉館して、日もとっぷり暮れてしまいました。


ワーテルロー古戦場、ライオンの丘にて

こんな異国の原っぱにひとり残されても焦らないのは、「四十にして惑わず」の年頃のせいかも、などと考えながら辺りを歩いてみると、少し先に明かりの灯った建物が見えます。 丸太小屋風のつくりで、地元の人たちが集まる居酒屋のようでした。 窓から中をのぞいてみると、19世紀初めのフランス兵や将校の格好をした人たちが、ビールジョッキを手に楽しそうに歌っています。 私は好奇心に駆られて居酒屋の木扉を開けました。歌が止んで、人々の視線が一斉に集まります。
Bonsoir」と笑顔であいさつすると、向こうも「Bonsoir」と返してくれました。
彼らは英語を若干は理解できるけれど、フランス語しか話せないそう。 私のほうは少しならフランス語を解するけれど、話すのは苦手。相手はフランス語、こちらは英語で話すという奇妙な会話が続きました。

居酒屋にいた地元の人たちは親切で、ブリュッセル駅行の直行バスがあることを教えてくれ、バス停までの地図と時刻をメモに書いてくれました。
「皆さんのコスチュームは、ナポレオン1世時代のフランス軍のものですよね」
帰りの交通手段のめどがついたところで、気になっていた質問をしてみます。
「今日は練習日だったんだ」
「練習?」

「ああ、『14番目のナポレオンの露営』イベントの練習さ」
200年ほど前のワーテルローの戦いを記念して、戦いがあった6月18日前後に、毎年イベントが開催されるのだとか。
「露営の様子や食事、戦闘を当時のままに再現するんだ。今日は戦闘の練習をやったよ。ちなみにナポレオンとウェリントン、贔屓はどちらかい?」
「J'aime beaucoup Napol?on!」(ナポレオンが大好き!)
「じゃあ、われわれの仲間だ。出会いに乾杯!」
ベルギービールを飲みながら、ナポレオン談義に花を咲かせました。 どこの国でも、歴男・歴女は分かりあえるものです。 タクシーが来なくて結果よかった。


地元の人から二角帽をかぶせてもらう、シアワセ。



200年前、ナポレオンは戦い、敗れた。