こんにちは、渋井真帆さんのブログをサポートさせて頂いております、家計の総合相談センターです。
今回は、渋井真帆さんが城山三郎経済小説大賞をつい先日受賞されたのですが、今週号の週刊ダイヤモンドに、特集ページがくまれています(P128-P131)ので、特集ページを少しご紹介させて頂きます。
ぜひ、お近くの書店でご覧ください♪
来年、ダイヤモンド社より単行本が刊行される予定ですので、楽しみにお待ちください!
これから、ますますのご活躍が楽しみですね♪
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「有機食品産業はカナダで最も成長している分野のひとつで、小売販売は年20%近く成長しているんだよ」
ボニーと買い物に出かけた日、スーパーの有機食材の豊富さに圧倒されたことを晩の食卓で話したところ、早速ご主人のデイブが説明してくれました。デイブは政治、経済問題への関心が高く、彼がブログ(Blog Borg Collective)で発信する意見や見識は、地元の新聞社にしばしば取り上げられるほどのものです。
「20%も! 何でそんなに成長できるの?」
「まずは需要があるからだよ。調査によれば、カナダ国民の40%が有機食品を頻繁に買って、18%が定期的に購入しているそうだ」
健康的な理由から、さらに環境意識の高まり、ヨガブームに惹起される自然志向などによって、ここ数年、カナダ人消費者はこれまでになく安全で環境に配慮した方法で生産された食品を求めるようになっているそうです。その需要に応えたのがオーガニック(有機)食品です。
「だけど農作物は工業製品と違って、需要が増えたからといって供給が増やせるものではないのに、どうしてカナダはスムーズに増やせたの?」
「カナダは有機食品の生産に向いている国なんだよ。国土が広く、気候は寒冷。人口密度は低い。というわけで害虫や病気が少ない。だから農薬の使用を減らしやすいんだ」
「政府の後押し政策みたいなものは存在するの?」
「もちろんあるさ。カナダにとって有機食品は国としての国際的な影響力、ひいては国力を高める重要なツールのひとつだからね」
「国力?」
私は目を丸くしました。オーガニックといえば私にとっては健康的で、ちょっとオシャレなイメージです。それが国際的な影響力とか国力とかの話につながってくるとは、想像もしていませんでした。
「そうか、規格か!」と思ったものの、英語でなんと表現すればいいのか分かりません。急いで電子辞書を使って〝規格″を表す英単語を探します。
「正解だ」デイブが満足げにうなずきます。「カナダは有機食品について厳格な規格を設けて運用しているが、政府はカナダ規格の国際的承認を得ることで、自国業界の競争力向上をはかるのはもちろん、食品の安全性、環境配慮の面で世界のリーダーになろうと目指しているんだ」
その試みはほぼ成功するだろうと、デイブは誇らしそうに締めくくりました。アメリカすら手も足も出ないと(カナダ人はアメリカの影響を受けつつ、競争心も強いらしい)。
ボニーがデザートにとオーガニックの青リンゴを用意してくれました。手に取って、皮ごと一口かじります。カナダの政治的野心を秘めた新成長産業の味は甘く、ほのかに酸味がしました。
2012年6月3日、生まれてはじめてカナダの地面を踏みました。 ちょうど飛行機の到着が夕暮れ時にぶつかり、数年前にTVで観たバンクーバーの美しい街並みが夕日を浴びて茜色に輝く光景を、空の上から眺めることができました。
入国審査を無事終えてゲートを出ると、まず最初に大きなカナダ原住民伝統の木彫り像が出迎えてくれました。 そのすぐ手前で「Welcome! MAHO」と書かれたペーパーを手にした年輩のカナダ人夫婦が、黒髪の日本女性といっしょに立っています。ホームステイでお世話になるデイブ(Dave)とボニー(Bonnie)ご夫妻、そしてバンクーバー生活をサポートしてくれる真澄さんです。
真澄さんについては後日詳しく紹介させていただきますが、元は日本の外務省関連の団体で仕事をしていた方で、会社経営をしているアメリカ人のご主人と10年ほど前からバンクーバーへ移り住み、ご自身でも通訳のほか、バンクーバー長期滞在や留学のためのコーディネイト会社(HP)を経営している女性です。
バンクーバー冬季オリンピックが開催されたときには、日本のTV局のサポートや企業のVIPの方々の通訳で活躍されたのだとか。
その彼女がコーディネイトしてくれたのが、デイブとボニー宅での短期ホームステイでした。
「彼らはカナダ人の典型的なリタイアメント夫婦です。どちらかといえば裕福な部類に入るかもしれません。
アイルランド系で父祖の代からカナダ人、郊外の美しい自然に囲まれた閑静な住宅街にある庭付きの持ち家に暮らし、同じ敷地内に長女夫婦と小さなお孫さんたちが住んでいます。 高い教育とこれまで培ってきた経験を生かして、地域でのボランティア活動にも熱心です。 日本の文化にも関心を持っていますが、日本語は話せません。滞在のはじめに夫婦と日常を過ごすことで、乗り物の利用方法や買い物の仕方といった基本的な生活手段を知るのはもちろん、北米の一般家庭の慣習や価値観にふれる機会を手にできます」
と真澄さんの弁。
「食事も肝心です」デイブが運転する車の後部座席で、真澄さんの熱心な説明が続きます。「日本人は新鮮な野菜や果物を欲しがりますが、北米ではピザとフレンチフライポテトが食事の定番という家庭も珍しくないんです。その点、ボニーは料理上手で、健康にも関心が高いですから心配ありません」
心配ないどころか、楽しみといえば3度の食事になるほど、ボニーの作る料理はプロのシェフも顔負けの美味しさでした。さらに驚かされたのは、彼女の使う食材が肉も魚も、野菜、果物、バターやチーズの乳製品、油、調味料にいたるまですべてがオーガニック製品だったということです。
会社を立ち上げて12年、40歳を迎えた自分が半年も休業して留学すると決めたとき、周囲の何人かは驚いたり、やんわり止めたりしましたが、意外にもクライアント先の企業はどこも理解してくれました。
実は今回の留学は2年前から計画して、着々と準備してきたものです。きっかけはTBS系の「朝ズバ」という番組に、コメンテーターとして出演したことです。 3か月ほどいい経験をさせてもらいましたが、自分の知識、経験、思考の未熟さを嫌というほど思い知らされたのも事実です。
ちっともコメントができずに落ち込んでいた私のそばに、CM中、みのもんたさんがやってきてポツリとつぶやきました。もっと見聞を広めたほうがいいだろうな、と。
すかさずコメンテーターのおひとりが「渋井さん、大人になって留学してみるのもいい経験だよ。 社会人経験をそれなりに積んで、自信も少しはついたが限界も思い知らされて、さまざまなことに理不尽さを感じてもいる。そうした年頃だからこそ、日本と違う環境に飛び込んでみれば大きな化学反応を自分のなかに起こせるよ」とおっしゃいます。
「自分の見聞を広げる必要性は痛いほど感じていますし、留学は魅力的ですが、私の年齢では仕事も、家庭も、それに資金でも制約がさまざまにあります」
「すべて自分の気持ち次第ですよ。仕事でもそうだが、人生はなおさら頭ばかり使ってはいけない。頭ばかり使うと、できない理由ばかり探してしまう。
だけど気持ちはそんなことをしない。技術でもビジネスの手法でも、革新的なイノベーションは『どうしてもやりたい』という気持ちから生まれる。人生も同じです。 気持ちが『やってみたい』というのなら、それに従うべきです。もちろん実現するまでに壁はある。そのときこそ頭を使って解決策を必死で考えればいいんです。 それにあなたの年頃だとまだ時間が十分ある。今すぐとがむしゃらにならずに、2年先、3年先の実現を見据えて準備すればいい」
資産運用と同じですよ、とその人は笑って肩をすくめました。
私は自分の気持ちに問いかけてみました。時間がかかりましたが、心がもとめる人生をクリエイトしてあげようと決意しました。 どこかで日々に飽きていて新しい挑戦を望んでいたのに、変化への不安や惰性が、一歩を踏み出す勇気を妨げていたのです。
その頃の私は個人向けの事業と法人向けの研修事業を手掛けていたのですが、まずは法人向けに一本化しました。 思い切りのいる決断でしたが、おかげで時間をねん出することができました。ずっと突っ走ってきて、新たなインプットをする必要があったのです。とくに大学受験以来、まるきり避けてきた英語と格闘しなければなりませんでした。就職内定時の抜き打ちTOEICのスコアが380点という私にとって、これは頭の痛い問題です。
それから2年、40歳になった私はついに計画を実行に移しました。3年先を考えていたのですが、3.11の地震が私の気持ちを後押ししました。 地震の起きた夜、ようやくついたTVの画面の向こうには、母の故郷であり、私が生まれた場所でもある気仙沼市が炎に包まれている光景が映し出されていました。 とめどなく涙があふれました。
それと同時に、しっかり生きないといけない、背筋をきちんと伸ばして、授かった人生を後悔のないよう送っていこうと心に誓いました。逝ってしまった人たちのためにも。
こうして私の大人の留学がはじまりました。スキルはもちろん、見聞を広げるという意味では、遊学のほうが言葉としてふさわしいかも知れません。 これから週2回のペースで留学エッセイを連載していきますが、グローバル人材という言葉が巷を飛び交っているこの頃、自分の中のなにかを変えたいと思っている〝あなた″の頭と心をやんわり刺激するような、異文化コミュニケーションあり、キャリアあり、マネーありといった盛りだくさんの内容をお送りしていきます。 ぜひお楽しみください。
突然、携帯電話が鳴りはじめました。10秒、20秒、30秒……無視するつもりでしたが、留守番電話の設定をし忘れたのか陽気な音楽はいつまでも止みません。相手もけっこうしぶとい。ついに根負けして、布団から腕を伸ばして着信ボタンを指でさぐります。
「やっと出てくれたー」
耳に入ってきたのは、友人のはつらつとした声。だいぶ長いこと会っていないから、久しぶりに飲みに行こうと一方的にまくしたてます。
「気がついたらもう一年の半分が過ぎていてびっくりよ。仕事やりくりするから、とにかく六月の末に飲みに行こうよ」
「悪いけど、わたし無理」
「そんなに忙しいの?」彼女の声が鋭くなります。管理職になったせいか、近頃は心なしか声にドスがきくようになったかも。「何とかしなさいよ」
「どうしたって無理、ごめん」私は眠い目をこすりながらこたえます。
「あんた、もしかして居眠りしてたでしょ」
こんな日が昇っている時間に昼寝ができるなんて、フリーは気楽でいいねと、彼女がちくりと皮肉をいう。
「仕方がないよ、こっちは真夜中なんだから」
「こっち? 今、どこにいるの」
「バンクーバー」
「バンクーバーってどこだっけ? そうか、タイの首都だ!」
それはバンコクです。
「バンクーバーだってば。英誌『エコノミスト』が実施している世界でもっとも住みやすい都市ランキングで、5年連続1位に輝いているカナダ西海岸の都市よ」
「いつから滞在しているの?」
「到着したのは6月3日」
「いつまでいるの?」
「半年間。留学することにしたの」
ほんのちょっと間が空いて、すぐに耳が痛くなるほどの声が電話口から響きます。
「仕事は? どうしたのよ」
「半年の間、休業することにしたわ」
「旦那も一緒?」
そうはいきません。彼は日本に残って仕事をしています。
「寂しくないの?」
そんなはずないじゃない、と叫びそうになるのを慌てて押しとどめます。真夜中ですし、下の階にはホームステイ先のリタイアしたカナダ人夫妻が眠っています。それにしても結婚して17年、はじめて離れて暮らすことになったわけですが、正直を言うとこんなに寂しい気持ちになるとは予想外でした。一緒にいるときは口喧嘩ばかりだったのに。そういう意味では夫婦仲が微妙なときは、海外留学別居がおすすめかも知れません。かといってウチの夫婦仲が険悪なせいで留学したわけではないので、あしからず。